平成23年5月開催の第2回社員総会で前久保哲夫会長から会長職を引き継ぎました。従来、会長職は1年任期でありましたが、平成22年5月の一般社団法人化後に選任された会長から2年任期となり、私は平成23年度、24年度の2カ年、会長職を努めることになります。皆様のご支援を得て、日本地震工学会の発展に尽くして参りたいと存じますので、どうぞご支援のほど、お願い申し上げます。
まず、最初に、この度の東日本大震災により亡くなられた多数の犠牲者の霊に対して衷心より追悼の念を捧げると同時に、物心両面にわって甚大な被害を受けられた被災者の皆様に心よりお見舞いを申し上げます。地震工学および地震防災に関する学術・技術の進歩発展をはかり、もって地震災害の軽減に貢献することを目的とする日本地震工学会にとって、この地震による教訓を最大限くみ取り、これを将来の地震災害の軽減、防除に役立てることが、私たちに課せられた使命だと考えています。
日本地震工学会は、我が国に地震工学が包含する幅広い学問、技術領域を束ねる学会が存在しなかったことから、米国地震工学会(EERI)をお手本として、我が国にもこうした学会を作るべきであるという、青山先生、岡田先生、土岐先生等の諸先輩のご努力により、2000年9月に発足準備会を立ち上げ、2000年12月に設立総会を開催して、2001年1月1日をもって発足したものであります。総会時点における入会申込者は1,045名でありました。私は、当時、会員勧誘部会(私1名だけでしたが)を仰せつかり、毎日、会員の応募数の棒グラフとにらめっこで、地震工学に関心を持つ研究者、技術者等に漏れがないかを中心に、会員の勧誘を担当しておりました。
日本地震工学会は本年で満10才を迎え、諸先輩の努力のお陰で大きく成長して参りました。しかし、地震工学の究極のターゲットは、地震災害の防除を通して国民が求める安全で安心な社会の実現にあることを考えると、日本地震工学会が果たすべき役割は非常に大きいものがあります。東日本大震災という甚大な犠牲の上に得られた貴重な震災経験を、少しでも今後の震災の軽減、防除に役立てるようにして行くことが重要です。自分が力不足であったためにあのような惨事が生じたとまで考えておられる会員が何人もいることは、地震工学の研究者、技術者の社会的使命が如何に大きいかを、如実に示していると考えております。
日本地震工学会の力の源泉である研究委員会をより活発にすると同時に、より貢献度の高い論文を世に出せるように論文集を一層充実させ、また、地震発生後、関連学会と協力して、タイムリーに地震被害調査団を出し、被害の実態を把握し、これを震災対策に活かすとともに、さらに、地震工学に係わる多分野の研究者、技術者の情報交換の場として、日本地震工学会“大会”を、着実に実施することに加えて、私は自分の任期内に以下の3点に貢献していきたいと考えております。
1つは、東日本大震災とその後の震災に対する対応です。東日本大震災後、日本地震工学会は土木学会、建築学会、地盤工学会、機械学会、地震学会の6学会と協力して、“東北地方太平洋沖地震・被害調査連絡会”を立ち上げました。現在まで2回の連絡会が開催されていますが、個別の学会の議論はその設立の理念となっているテリトリーに限られます。地震災害をもう少し大きな目で俯瞰的に見るためには、日本地震工学会の役割が大きいと考えられます。兵庫県南部地震以降、日本は地震活動期に入ったと言われておりますが、今回の東日本大震災を境に、来るべき南海、東南海地震や東海地震、さらには首都圏直下型地震の発生も懸念されております。東日本大震災を教訓に、どのような対策を取っていくべきかに関する検討を日本地震工学会として実施すべきと考えています。幸いにして、久保前会長に特別委員会設置の道筋を立てていただきましたので、この場を有効に活用し、1000年に1回と言われる震災から何を学ぶかを検討すると同時に、将来の巨大地震に対して備えておくべき対策を提言していきたいと考えております。
2つめは、海外に対して東日本大震災に関する情報発信を行っていくため、東日本大震災から1年後にあたる、平成24年3月11日前後を目処に、他の5学会と協力して、国際シンポジウムを開催したいと考えています。地震先進国の日本がこの地震から学ぶ点は何か、他の国はこの地震をどのように捉えたかは、地震被害の脅威にさらされている国々にとって共通する重要な課題だと考えられます。国際シンポジウムを日本発の情報発信の場にしたいと考えております。
3番目は、海外会員の獲得とこれによる日本地震工学会の国際化の進展です。EERI(米国地震工学会)では、約2,200人の会員のうち20%弱の400人が海外会員であります。カナダ100人、日本70人、英国25人と、多数の海外会員がいます。海外会員の獲得は、海外において日本の技術が正当に評価されるために重要です。これは、日本のお家芸とも言える地震工学の技術に対する評価が、技術の分野だけに止まらず、日本そのものの評価につながるところが大であるからであります。日本には毎年多数の留学生が地震工学を勉強に来てくれていますから、これらの学生を中心に、海外会員の獲得に力を入れていきたいと考えています。
以上、いくつかをご紹介しましたが、このほかにも会長として実行すべきだと考えているプログラムがいろいろあります。これらの実現には、会員の皆様のご協力が何よりも重要であります。今後2年間、日本地震工学会の発展のために力を尽くして参りたいと考えておりますので、なにとぞご支援のほどお願い申し上げまして、就任の挨拶といたします。
日本地震工学会会長 川 島 一 彦
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