これまで、学会論文集の編集と発刊、学会誌の定期発刊と内容の充実、調査研究活動の推進と社会への還元、年次大会および各種シンポジウムの円滑運営、地震災害情報の迅速な収集と対応などは、学会事業の円滑な運営と適切な予算管理の下で継続して行われてきました。このような活動の継続性が望まれる中、日本地震工学会へ期待することとして、昨年の学会誌で特集が組まれた「若手研究者・技術者から見た地震工学(No.41, 2020.10)」では、分野横断的な学会の強みを生かした学際交流の推進、および地震関連研究や業務を深く議論できる場や、知識の吸収や意見交換が気軽にできる、講習会とはまた違った場の提供等の要望が寄せられていました。後にも述べるように、多分野にわたる国内外の著名な研究者・実務者の講義を肩肘張らずに聴講したり、関連する研究者・実務者が世代を超えて忌憚なく討論できるようなオンラインでの研究会等は、その要望に応えることが可能な一つの手段になるかもしれません。
立候補時の抱負にも述べましたが、学会の長期的なビジョンの醸成に加え、これまでの学会活動をまずは盤石なものとすると同時に、特に、研究委員会数の増大、地方開催も含めた年次大会の活性化、学生会員の増員と正会員への円滑な移行に注力するとともに、地震災害調査経験の豊富な会員と若手中堅会員が一体となった被害調査派遣の仕組みづくりや、途上国への地震工学の技術支援・教育支援への道筋の構築なども必要ではないかと考えております。
歴代会長のご尽力で2020年度に3回目の日本開催となるはずであった17WCEEは、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で本年に延期となりました。その終息が見えない現状では、これまでの顔を合わせて議論を行う会議形式とは異なる形式をとらざるを得ません。海外からの参加者にとっては、東日本大震災で甚大な被害を受け、依然として復興の途上にある被災地の現状を視察できるといった、これまでにない機会を得ることができず、また国内参加者も含め、現地の風土や環境、文化に触れながらの直接の意見交換ができないというデメリットもあります。しかし、逆に時間や人数の制約を超え、必要とあらばオンラインでいつでも研究に関するディスカッションができるという、これまでとは違ったメリットを持つ会議に移行しつつあります。ただ、このような環境下においても、日本地震工学会は主幹学会として、引き続き顔の見える関係を築けるオンサイトでの良さをアピールするとともに、最先端を行く日本の地震工学の研究や技術、関連する様々な取り組みをあらゆる手段を使って積極的に世界に情報発信していきたいと思っております。
1995年の兵庫県南部地震以降、気象庁が地震の規模や被害の程度などの基準によりその名称を定めた地震現象は10を数えます。その中でも、地震の大きさや被害規模からも特筆すべき2011年の東北地方太平洋沖地震から10年目、また熊本地震からは5年目を迎え、今後は首都直下地震や南海トラフの大地震の発生、さらには極端気象としての風水害、およびコロナ感染症に代表されるような感染症などとの複合災害にも対峙していかなければなりません。
このような節目の年からの2年間、皆様と共にこれまでの日本地震工学会の伝統を守りつつ、また地震工学会に向けられた会員各位の期待に応えるべく、新たな気持ちで学会の発展に尽力して参りたいと思います。引き続き、ご支援ご協力の程、どうぞよろしくお願い申し上げます。
日本地震工学会会長 清野純史
日本地震工学会は2001年1月の創立以降、間もなく20年を迎えようとしています。人で言えば
そろそろ大人の仲間入りです。上記のような国内の差し迫った脅威に加え、これからの成熟社会
を見据えた地震防災に対する長期ビジョンとそのために比較的短期間で取り組むべき課題を、
次世代を担う研究者・技術者・行政担当者らとともに本会としても本格的に議論すべき時期に
防災技術として展開するためにはもちろんのこと、また本会会員、特に次世代を担う若手会員に
とって本会が魅力的であるためにも、極めて重要であると感じています。
また国内対応だけでなく世界に対する情報発信力の強化も重要な課題です。日本は防災・減災
に対する優れた研究成果や技術を有していますが、これらはより積極的に世界に発信してゆくべきと
考えます。その社会実装にはもちろんその国や地域に適したスパイスでカスタマイズすることが必要で、
これは必ずしも容易ではありませんが、その困難も克服しつつ日本のプレゼンスを世界に示すことが
できるような活動も極めて重要と考えます。
2020年9月には日本で3度目となる17WCEEが仙台で開催されます。阪神淡路大震災をはじめと
する多くの試練からの復興を経験し、今まさに東日本大震災からの復興を加速しつつあると同時に、
将来の国難級の地震災害をいかに回避するかを議論し対策を講じつつある日本において、最新の
研究成果や減災対策技術・戦略を世界に向けて発信するとともに、地震国が共通に抱える次世代
の課題とその解決を強く意識した議論ができるよう、ホスト学会として最大限に貢献したいと考えます。
振り返ってみますと学生の頃に地震と建築の関係を学び始めてから30年以上が過ぎ、私自身は
この間、国内外の地震被害の調査や復旧支援活動、防災・減災研究に携わり多くの経験を得て
まいりました。特に日本地震工学会の会員となってからは、より幅広い分野の会員の方々との交流
ができ、これを通じて学んだことは計り知れません。本会のこのような特徴を最大限に活かし、発展
させることの重要性を忘れてはなりません。
平成から令和に改元され、新たな日本の始動とともに、これからの2年間、会員の皆様とともに
日本地震工学会での活発な議論、その結果の発信と実装に向け、本会の目的である地震災害の軽減と
社会の発展に、より一層寄与してゆきたいと考えます。よろしくご協力、ご支援のほどお願いいたします。
日本地震工学会会長 中埜良昭
会長就任に当たって、改めて、本会の定款や、歴代会長の挨拶文、過去の提言などを、拝読しました。本会の目的は、定款第3条に明快に記されており、「地震工学および地震防災に関する学術・技術・教育の進歩発展をはかり、地震災害の軽減に貢献する事業を行い、もって社会の発展に寄与する。」とあります。すなわち、新たな研究成果を生み出すことだけに留まらず、研究成果を具体的な技術に還元すると共に技術者を育成し、研究成果を災害被害の軽減に結びつけ、社会の持続的発展に寄与すると解釈できます。
また、川島一彦先生が会長のときにまとめられた「地震被害の軽減と復興に向けた提言 -東日本大震災を受けて-」(2012年5月)では、①安全と必要コストの周知を、②情報化社会の発展を地震防災の実践にも、③ハードとソフトの防災技術の融合、④アウトリーチ等社会への情報還元活動を積極的に、の4つの決意表明をしています。さらに、地震工学の専門家への提言として、①慣習に囚われない想像と発信、②社会システム全体としての安全性を見る、③情報発信は先ず安全認識の違いを理解する、④工学の本質を踏まえ国民に向けて安全に関わる説明や情報発信を行う、の4点を掲げています。すなわち、従来の地震工学研究の枠にとらわれず、多様な研究・技術を融合し、俯瞰的かつ具体的に、社会と共に災害被害の軽減を実現する、と読めます。この提言の一部は、本会会員も貢献しているSIP「レジリエントな防災・減災機能の強化」で具体化されつつあります。
新会長としての責務は、定款にある目的を果たすために、上記の決意・提言を具体の実践に移すことにあると思っています。そのために、「Think globally, act locally.(大局着眼小局着手)」の態度で、「全体最適」「連携」「地域」「実装」「未来」をキーワードに、学会運営を進めて行きたいと思っています。
社会全体としての被害軽減のためには、全体最適と部分最適の同時実現が必要です。そのためには、本会を構成する建築、土木、地盤、地震、機械の分野間連携を深め、さらに社会科学分野などとの連携を進めることで、総合力をつけてい く必要があります。また、「予測」「予防」「対応」の研究成果を被害軽減に繋げるために、予測研究を危険回避ための適正な土地利用計画に、予防研究を抵抗力向上のための耐震化推進に、対応研究を被害波及最小化と早期回復の実践へと結びつける必要があります。そのためには、三者のバランスに配慮しつつ、研究成果を具体的技術や制度設計に還元し、さらに社会の実践へと繋げる仕組み作りが必要です。そこで、まず、分野を超えて議論すべき共通課題を設定し、会員が情報交換できる場を作ることから始めたいと考えています。
また、国難とも言える事態が予測されている南海トラフ地震を対象に、その抜本的な被害軽減を実践課題として位置づけたいと思います。予想される被災地域ごとに地域特性に応じた被害軽減策を立案することを目指して、南海トラフ地震対策を進めている産学官の担い手と、予想被災地域の地震工学研究者が集う場を作り、各地の現状と将来像を見つめつつ、推進すべき研究課題の抽出と今後の防災戦略作りなどに着手したいと考えています。この場作りが、本会の地域活動の活性化につながることを祈っています。
これから2年間、地震災害を未然に防ぎ、明るい日本の未来を拓くため、「あ・た・ま(明るく・楽しく・前向きに)」を大切に、皆様と共に頑張っていきたいと思います。
日本地震工学会会長 福和 伸夫
これらの被害想定の精度に関しては様々な意見があるでしょうが、現在の我が国の財政状況や少子高齢人口減少社会を考えれば、これらの巨大地震災害への取り組みは「貧乏になっていく中での総力戦」であることは間違いないと思います。総合的な防災力の向上は、「自助・共助・公助」の3者の担い手ごとに、「被害抑止」「被害軽減」「災害の予見と早期警報」の3つの事前対策と、「被害評価」「緊急災害対応」「復旧・復興」の3つの事後対策を、対象地域の災害特性と防災対策の実状に合わせて適切に組み合わせて実施していくことで実現します。しかし我が国の財政と人的資源の制約を考えれば、今後は「公助」の割合は益々減っていくことが予想され、これを補う「自助」と「共助」の確保と、その活動を如何に継続していくかが大きなポイントになります。このような課題に対する解決策は、従来型の地震工学の研究のみからは出てきません。
これまでの研究の深化に加え、理工学と人文社会学を融合した研究成果に基づくハードとソフトの組み合わせ、さらに産官学に金融とマスコミを合わせた総合的な災害マネジメント対策が求められています。 これらを実現する上でのキーワードは防災対策の「コストからバリュウへ」の意識改革と「フェーズフリー」です。従来のコストと考える防災対策は「一回やれば終わり、継続性がない、効果は災害が起こらないとわからない」ものになります。しかしバリュウ(価値)を高める防災対策は「災害の有無にかかわらず、平時から組織や地域に価値やブランド力をもたらし、これが継続性される」ものになります。防災の視点からの組織や地域の格付けとその結果に基づく金融モデルやリスクコントロールに貢献する災害保険などがその典型です。
「フェーズフリー」は平時と災害時、防災の3つの事前対策と3つの事後対策など、様々なフェーズで適用できたり利用可能な商品、システム、会社や組織、人やその生き方、などを表現する新しい言葉です。社会の様々な構成要素を「フェーズフリー」にしていくことで付加価値をもたらすとともに、結果的に社会全体を「フェーズフリー」に、すなわち災害レジリエンスの高い社会に変革しようとするものです。
我が国を代表する地震工学の専門家集団であるJAEEに対する社会の期待や課題は、東日本大震災の復旧・復興支援、首都直下地震の危険性が指摘される中での2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた地震対策の推進、第17回世界地震工学会議(17WCEE)の誘致、南海トラフ沿いの巨大地震対策の推進、諸外国での地震災害への支援、学会としての強靭な財政基盤の確立など、様々です。これらの期待や課題解決に答えられるよう、また会員の皆様のお役に立つ学会となるよう努力していきますので、益々のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。
日本地震工学会会長 目黒公郎
本学会は2001年に任意団体から始まりましたが,2010年に一般社団法人になり,さらに,本年(2013年)公益社団法人として認可されました。このようにこれまでの執行部の方々のご努力と会員の方々の支持により組織が確立されてきましたが,同時に本学会の社会的責任も増加してきました。とくに公益社団法人になりましたので,活動内容として会員内での学術的発展だけでなく,社会への還元を目指す必要があります。また,阪神・淡路大震災や東日本大震災と,大震災と名付けられた地震災害が相次いでいて,さらに南海トラフの地震や首都直下地震など広域かつ甚大な被害が生じる危険性のある地震の襲来が危惧される中,地震工学の立場から世の中に地震被害の実態を正しく伝え,防災・減災の方法を説明していくことが大切です。そのためには,講演会やマスコミなどを通して学会の外に向けた情報発信を積極的に行っていく必要があると思われます。これには,産官学に民,マスコミといった,社会との連携が必要です。このためにどんな方策があるか,いくつかの新しい試みをしてみたいと思っています。
研究・技術開発に関する最近の課題としては性能設計や長周期地震動,巨大津波などが挙げられますが,これからも新たな課題が次々出てくるかと思います。例えば,高度成長期に建設した多くの構造物の老朽化に対し,日常の維持管理の仕方が現在話題になっていますが,当然,地震時の安全性も議論しなければなりません。少子高齢化と地方の過疎化が急速に進む中,山間地の地震時安全性をどのように確保するかも検討する必要があります。地球温暖化による海面上昇も沿岸部の耐震性を弱めることになりかねません。また,東日本大震災では適正な土地利用や事前の復興準備のあり方も課題として上がってきています。このような長期の視野に立った課題に対しても予め研究しておく必要があると思われます。
以上,いくつか学会活動の案を示してみましたが,これまでの活動を当然引き継ぎ,学会活動の継続性をもたせたいと思います。例えば,国際化に向けた英文論文集の発行や,会報の定期的な発行,学会として重要な会員数の増強など,理事の皆さんとともに鋭意努力していきたいと思います。会員皆様のご支援のほどよろしくお願いします。
日本地震工学会会長 安田 進
平成23年5月開催の第2回社員総会で前久保哲夫会長から会長職を引き継ぎました。従来、会長職は1年任期でありましたが、平成22年5月の一般社団法人化後に選任された会長から2年任期となり、私は平成23年度、24年度の2カ年、会長職を努めることになります。皆様のご支援を得て、日本地震工学会の発展に尽くして参りたいと存じますので、どうぞご支援のほど、お願い申し上げます。
まず、最初に、この度の東日本大震災により亡くなられた多数の犠牲者の霊に対して衷心より追悼の念を捧げると同時に、物心両面にわって甚大な被害を受けられた被災者の皆様に心よりお見舞いを申し上げます。地震工学および地震防災に関する学術・技術の進歩発展をはかり、もって地震災害の軽減に貢献することを目的とする日本地震工学会にとって、この地震による教訓を最大限くみ取り、これを将来の地震災害の軽減、防除に役立てることが、私たちに課せられた使命だと考えています。
日本地震工学会は、我が国に地震工学が包含する幅広い学問、技術領域を束ねる学会が存在しなかったことから、米国地震工学会(EERI)をお手本として、我が国にもこうした学会を作るべきであるという、青山先生、岡田先生、土岐先生等の諸先輩のご努力により、2000年9月に発足準備会を立ち上げ、2000年12月に設立総会を開催して、2001年1月1日をもって発足したものであります。総会時点における入会申込者は1,045名でありました。私は、当時、会員勧誘部会(私1名だけでしたが)を仰せつかり、毎日、会員の応募数の棒グラフとにらめっこで、地震工学に関心を持つ研究者、技術者等に漏れがないかを中心に、会員の勧誘を担当しておりました。
日本地震工学会は本年で満10才を迎え、諸先輩の努力のお陰で大きく成長して参りました。しかし、地震工学の究極のターゲットは、地震災害の防除を通して国民が求める安全で安心な社会の実現にあることを考えると、日本地震工学会が果たすべき役割は非常に大きいものがあります。東日本大震災という甚大な犠牲の上に得られた貴重な震災経験を、少しでも今後の震災の軽減、防除に役立てるようにして行くことが重要です。自分が力不足であったためにあのような惨事が生じたとまで考えておられる会員が何人もいることは、地震工学の研究者、技術者の社会的使命が如何に大きいかを、如実に示していると考えております。
日本地震工学会の力の源泉である研究委員会をより活発にすると同時に、より貢献度の高い論文を世に出せるように論文集を一層充実させ、また、地震発生後、関連学会と協力して、タイムリーに地震被害調査団を出し、被害の実態を把握し、これを震災対策に活かすとともに、さらに、地震工学に係わる多分野の研究者、技術者の情報交換の場として、日本地震工学会“大会”を、着実に実施することに加えて、私は自分の任期内に以下の3点に貢献していきたいと考えております。
1つは、東日本大震災とその後の震災に対する対応です。東日本大震災後、日本地震工学会は土木学会、建築学会、地盤工学会、機械学会、地震学会の6学会と協力して、“東北地方太平洋沖地震・被害調査連絡会”を立ち上げました。現在まで2回の連絡会が開催されていますが、個別の学会の議論はその設立の理念となっているテリトリーに限られます。地震災害をもう少し大きな目で俯瞰的に見るためには、日本地震工学会の役割が大きいと考えられます。兵庫県南部地震以降、日本は地震活動期に入ったと言われておりますが、今回の東日本大震災を境に、来るべき南海、東南海地震や東海地震、さらには首都圏直下型地震の発生も懸念されております。東日本大震災を教訓に、どのような対策を取っていくべきかに関する検討を日本地震工学会として実施すべきと考えています。幸いにして、久保前会長に特別委員会設置の道筋を立てていただきましたので、この場を有効に活用し、1000年に1回と言われる震災から何を学ぶかを検討すると同時に、将来の巨大地震に対して備えておくべき対策を提言していきたいと考えております。
2つめは、海外に対して東日本大震災に関する情報発信を行っていくため、東日本大震災から1年後にあたる、平成24年3月11日前後を目処に、他の5学会と協力して、国際シンポジウムを開催したいと考えています。地震先進国の日本がこの地震から学ぶ点は何か、他の国はこの地震をどのように捉えたかは、地震被害の脅威にさらされている国々にとって共通する重要な課題だと考えられます。国際シンポジウムを日本発の情報発信の場にしたいと考えております。
3つめは、海外会員の獲得とこれによる日本地震工学会の国際化の進展です。EERI(米国地震工学会)では、約2,200人の会員のうち20%弱の400人が海外会員であります。カナダ100人、日本70人、英国25人と、多数の海外会員がいます。海外会員の獲得は、海外において日本の技術が正当に評価されるために重要です。これは、日本のお家芸とも言える地震工学の技術に対する評価が、技術の分野だけに止まらず、日本そのものの評価につながるところが大であるからであります。日本には毎年多数の留学生が地震工学を勉強に来てくれていますから、これらの学生を中心に、海外会員の獲得に力を入れていきたいと考えています。
以上、いくつかをご紹介しましたが、このほかにも会長として実行すべきだと考えているプログラムがいろいろあります。これらの実現には、会員の皆様のご協力が何よりも重要であります。今後2年間、日本地震工学会の発展のために力を尽くして参りたいと考えておりますので、なにとぞご支援のほどお願い申し上げまして、就任の挨拶といたします。
日本地震工学会会長 川島一彦
会長就任にあたりご挨拶申し上げます。
日本地震工学会は、地震工学および地震防災に関する学術・技術の進歩発展をはかり、それを以て地震災害の軽減に貢献することを設立趣意に掲げ、2001年1月に任意団体として設立され、その後9年余間にわたり学会事業としての展開をはかって参りました。昨2009年の第9回通常総会において、法人格の取得に向けての方向が会員の総意として承認され、濱田政則前会長のリーダーシップの元に、法人化準備委員会での作業、理事会での審議を経て、多くの会員諸氏のご支援・ご鞭撻により本年2月4日に一般社団法人日本地震工学会の設立が登記されました。本2010年5月20日に開催された任意団体としての第10回通常総会と一般社団法人としての第1回定時社員総会において、任意団体の解散と残余財産処分、今までの任意団体の会員と財産を一般社団法人日本地震工学会に移行する一連の議案が承認されました。事業計画等も、基本的には任意団体のそれらを微修正して引き継ぎ、会員の皆さまの権利・義務については、基本的には法人化後において変更はありません。
本年5月20日の第1回定時社員総会を以て実質的な活動をスタートすることになりました一般社団法人日本地震工学会は、法人の憲法に位置付けられます定款に於いて本会の目的を次のように宣しております:“当法人は、地震工学および地震防災に関する学術・技術の進歩発展をはかり、もって地震災害の軽減に貢献することを目的とする。その目的に資するため、次の事業をおこなう。”とし、以下に“調査研究とその振興”、“研究会の開催”、“会報・論文集及び研究成果等の発行”等の事業を挙げ、第2項として、“各事業の実施地域は日本国内及び海外とする。”と記し、国際協力への展開を目的として据えております。
本会が法人格を取得したことによるメリットとしては、幾つかの点があると考えられます。一つは、法人格を有することにより他学会・協会に対するプレゼンスを確保することができ、今後イコールパートナーとしてのより強い協調関係を構築することが出来る、二つは、競争的資金による研究課題に応募が出来るようになること、三つは、例えば文部科学省に於ける若手研究者の表彰事業に候補者を推薦できることになること、その他としては、研究・調査をサポートして戴ける寄付金を受け入れることが出来る等であります。そのほかにも、法人格を有したことによって新たに出来るようになることがあると思われますが、これらについては更に実情を継続して調べ、その結果については会員皆様方へホームページ等を通じお知らせいたします。デメリットは、任意団体から法人格団体へ移行したことによって規則、規約等に若干の新たな制約が生じることです。後者については、柔軟に対応して参ります。
本年度の本会の活動方針については、先ず、一般社団法人となった体制の確立をはかって参りたいと考えております。具体的には、後述します本会の特色を活かした学術活動の活性化に関連して一般社団法人日本地震工学会としての競争的資金の獲得、本会趣意にご賛同戴ける方々、諸団体からの共同研究の提案、寄付金等の獲得、ならびに一般社団法人日本地震工学会として本会会員の活動に対して外部の表彰制度への推薦などに前向きに取り組んで参り、念願でもあった法人化によって期待されてきたことに途がつけられることを期しております。
第二には、最近やや低調気味であった本会の学術活動の活性化を目指したいと考えております。私の捉えるところでは、本会の特色としては、①本会会員は、土木学会、日本建築学会、日本地震学会、日本機械学会、地盤工学会等の関連学協会において主導的な活動をされている;②本会の活動目的は、その内容は広範に及ぶものの、“地震工学および地震防災”の進歩、発展に絞っている等が挙げられる。この本会の有する特色を活かし、本会だからこそ出来る災害情報、社会システムを含めた各分野の協調による分野横断的な課題を取りあげ、推進したいと考えております。その為には、研究統括委員会をはじめとし、広く会員の皆様方よりいろいろなご提案を戴くとともに、理事会としては、そのような分野横断的な提案については支援を惜しむことのないよう、推進をはかって参ります。
2010年にはいっても、ハイチとチリにおいて大きな災害を伴った地震が日をおかずに続いて発生しました。これらの災害は、地震災害がそれぞれに地域性を有することを示しており、さらには事前の地震・防災対策および事後の救援体制の在り方を啓示していると受けとめられます。我が国においても、タイプの異なる南海トラフに沿った南海・東南海・東海地震や首都圏直下地震等の発生確率が高い値で評価されております。日本地震工学会が、定款に記す“地震工学・地震防災に関する諸課題に取り組み、その進歩発展を以て地震災害の軽減に貢献する”ことにより、社会的に果たすべき役割と期待もますます大きくなっております。日本学術会議をはじめとし、地震災害の軽減を広く共有する他の国内・国外の諸学協会との密な連携を推進し、地震工学、地震防災に関連する分野に係わる研究者、技術者の団体として本会趣意に沿い、主導的に国内外の地震災害の軽減に貢献をはかる本会の役割を明確にし、具体的な貢献、成果をあげるように取り組んで参ります。
会員各位の、一層のご支援とご協力を切にお願い申し上げます。
日本地震工学会会長 久保哲夫
会長就任にあたりご挨拶申し上げます。
日本地震工学会は平成13年1月に設立され、1年半近くで10周年を迎えることになります。この間、歴代の会長、副会長、理事および会員の御努力によって学会事業が順調に展開され、組織・体制も整備されて来ました。日本地震工学会の運営をこれまで支えて来られた会員諸氏に改めて敬意を表する次第です。
5月21日に開催された第9回総会におきまして、法人格取得に向けて本年度より準備を開始するという趣旨の議案を議決して頂きました。この議決によって、日本地震工学会は新しいフェーズに入るためのスタートを切ったものと考えております。
学会の設立時に掲げられていた主要な目標は
1)地震工学分野の横断的・学際的調査研究を推進し、関連学協会のリーダー的役割を担うこと、
2)地震災害軽減のための国際的活動を展開し、地震工学分野での日本の代表としての役割を果たすこと、
および
3)災害軽減のために直接的に国内外の地域社会に貢献すること、
であったと思います。これらの設立時の目標を達成し、学会の社会的評価を高めて、さらに発展させるためには「法人格取得」は不可欠であると考えています。会員の皆様、理事の方々の御協力を得て、法人化に向けて着実なステップを刻んで行きたいと思います。
学会の将来計画に関しましては鈴木前会長のもとで「将来計画検討委員会」が組織され、これまでの学会活動の点検と、それにもとづいた将来の方向性や方策が示されています。会員増強、特に若手会員増強のための学生会員の会費優遇措置については既に本年度の総会において議決され、具体化されています。その他、「将来計画検討委員会」では理事会をはじめとする学会運営のスリム化や、国際交流や社会的活動の一層の発展の必要性など、数々の貴重な指摘を頂いております。特に、学会財政の見通しについて、会費収入の増減と震災予防協会との協力関係を踏まえた報告をまとめて頂いております。このように法人格取得をはじめ、学会のさらなる発展のために取り組むべき課題が数多く残されております。いずれの課題に関しても理事の方々には御尽力をお願いすることになりますが、会長としても全力を尽したいと考えています。
本年に入ってイタリア中部での地震、昨年は四川地震と岩手・宮城内陸地震と国内外で地震災害が発生しています。特にアジア地域の開発途上国では地震災害がこの20年間急増しており、この傾向は今後も続くと考えられます。さらに、わが国では南海トラフ沿いの巨大海溝型地震や首都圏直下地震の発生が逼迫しているとされています。日本地震工学会が社会的に果たすべき役割は益々増大しています。地震災害軽減に関係する他の学協会、国際学会さらには日本学術会議等との密接な連携のもとに技術者、研究者集団として、国内外の地震災害の軽減に主導的な立場で貢献するという本学会の役割をより明確に果たしていきたいと考えます。
日本地震工学会会長 濱田政則
このたび日本地震工学会の会長に就任致しました鈴木でございます。私の出身分野は機械工学ですので、多くの会員の方々には馴染みが薄いことかと思います。そこで、簡単な自己紹介も含めて機械工学の分野と地震工学の関わりについて述べます。機械の分野が地震や耐震設計と関わり始めたのは、1960年代からだと思います。その契機となったのは1964年6月に発生した新潟地震であり、石油コンビナートをはじめ多くの工場・生産施設に火災を含む被害が生じました。直後に東大生産技術研究所が発行した「生産研究」の新潟地震特集号で、当時の岡本舜三教授は、「これからは、工場や機械設備の耐震化が重要な課題になる」と指摘されていました。実際に、この地震の被害調査には、柴田碧先生を始め機械系の研究者が参加されています。
さらに、この頃から日本に建設が始められた原子力発電所の圧力容器や機器・配管系などの耐震設計をどう進めるかについての研究プロジェクトが機械学会などで始められ、大学やメーカーなどが連携しての研究活動が盛んになって行きました。それ以降、機械工学の分野では、柴田碧、下郷太郎、佐藤壽芳などの諸先生をリーダーとして、主として機械力学、振動学、材料力学の研究者が中心となって、耐震設計法、免震・制振技術、ダンパ-の開発設計などの発展に力を注いで現在に至っております。私自身もこのような流れの中で育てられてきました。
しかし、機械系の地震工学はそれだけでは成り立たず、機械工学に軸足を置きながらも常に建築、土木、地盤工学、地震学の研究者、技術者からの協力を頂きながら成果を得てきたのであり、言い方を変えるともっとも横断的なスタンスの要求される領域なのかもしれません。私も幸いにして多くの優秀な他分野の友人に恵まれ、そのお陰でさまざまな知見を得ることができました。今回、初の機械系からの会長ということになりましたが、先達たちの40年以上にわたる努力が認められたのかという感慨を持つと同時に責任の重さも感じているところです。
さて、2001年に創設された本学会も青山博之初代会長を始めとする歴代会長、副会長、理事会メンバーのご尽力、何よりも多くの会員の皆様の厚いご支援のもとで存在感のある横断的学会として着実に発展していると言えましょう。特に、昨今の地震工学を取り巻く状況は、地震や地震被害対策、復興計画などに対する本学会の責務が改めて要請されているように感じられます。昨年7月に生じた新潟県中越沖地震では多数の家屋や地盤に被害が出ましたが、何よりも柏崎・刈羽の原子力発電所の被害が国際的にも大きな問題となりました。幸い、重要な施設や設備には深刻な被害はなかったものの、現在もなお被害状況の精査と今後の耐震対策に多くのエネルギーがつぎこまれております。原子力施設に限らず、エネルギープラントや生産施設は、地盤、土木、建築それに機械など多分野の技術からなる総合構造システムであり、改めて多分野の共同作業の重要性が浮き彫りになりました。本学会の活動基盤のひとつが多分野の協同にあるとする由縁です。
5月に発生した中国・四川大地震は、まだ詳しい被害状況は不明の所が多いのですが、極めて大規模で深刻な被害が報告され、今後、地震防災、復興対策などにおいて国際協力、国際支援が要請されると思われます。日本が有する優れた耐震技術、復興技術などを広めていくことが一層求められ、研究面での協力、支援が強調されると予想されます。本年10月に北京で開催される世界地震工学会議(WCEE)においても、その立場からの本学会の果たす役割は大きいと思います。
本原稿を書いている現在も、6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震での行方不明者、被害者救出のニュースが流れております。小長井一男前副会長、濱田政則次期会長など本学会のメンバーが連日テレビなどを通じてこの地震のメカニズム、地盤や道路などの被害状況について解説をされています。地震工学会も合同調査団の一構成団体として協同行動に参画しております。
地震は時、場所を選ばずに無差別的に襲来するので、それぞれの被害教訓を真摯に検証、研究して、新しい決意で研究に挑まなくてはなりません。社会的に地震の恐さが認識されている現在こそ、本学会の存在意義を主張して学会を拡大する絶好の機会ともいえましょう。特に、次代を背負う若い研究者、技術者、学生の皆様に、それぞれの分野から地震工学の領域に参画してくださることを強く訴えたいと思います。
浅学非才の私ですが、一年間、頑張りたいと思います。どうぞ宜しく日本地震工学会をご支援 下さい。
日本地震工学会会長 鈴木浩平
本学会は会員相互の協力によって、地震工学および地震防災に関する学術・技術に関する進歩・発展をもって地震災害の軽減に貢献することを目的としています。また、わが国を代表して地震工学分野の国際交流、国際貢献の役割も担っています。これらの目的・役割を果たすべく、地震工学関係の研究者や技術者のみならず、地震・地震による災害に関するあらゆる分野の人々にとって有益な交流の場となるべく、学会活動を行っています。
2001年1月1日を期して設立されました本学会も、早7歳に成長いたしました。来たる10歳の節目の年を迎えるべく、本学会の存在意義、目的、役割を今一度明確にし、今後の大いなる成長に向け、活動方針をより具体的に策定すべく時期になったと痛感しています。
これまでに、初代会長青山博之先生を初め、歴代の各会長のもと、関係各位によるご尽力により、研究委員会、事業企画委員会、広報委員会等の各委員会を中心に、学会活動も軌道に乗り、全体的に質・量・内容ともに充実して参りました。しかしながら、関東・関西以外の地域での活動の活性化、法人化への具体的体制の構築、若手支援体制の構築等など残された課題が山積されているのが現状であります。
昨年度、地震に係る工学(機械工学、建築工学、地震学、土質工学、土木工学)分野での横断的学会として、本学会の対外的な活動基盤を確保する為に、日本学術会議の協力学術研究団体とし認定を受けることが出来ました。この基盤を基に、本年度より新たに法人化検討委員会を設置し、長年の目標でありました本学会の公益法人化に向けた検討を2年先を目途に具体的に推し進めることになりました。
このような状況のもと、新しく会長に選任されましたことを機に、魅力ある開けたアグレッシブな学会構築に向けて、
(1) 単独学会では解決出来ない重要課題や分野横断型事業の推進
(2) 若手研究者支援プログラムの推進
(3) 国際社会への対応強化
(4) 地震災害調査・支援活動の強化
(5) 学会活動の広報の充実
(6) 会員サービスの充実と会員参加型学会体制の構築
などを目標に、時代の変化を先取りしたアイデンティティの打ち出しを計りたく、各副会長、理事、委員会のもと、出来るところから随時に小回りのきくアクションプログラムとして推進したく考えています。
本学会を取り巻く環境は大変厳しいものがありますが、具体的に目標を果たせるよう責務を自覚し、大所高所的観点から本学会の益々の隆盛に向けて、微力ではありますが、この一年間会長として任を果たしたいと思います。会員各位の今後一層のご支援・ご協力を切にお願い申し上げる次第です。
日本地震工学会会長 北川良和
わが日本地震工学会は、21世紀の初日、2001年1月1日に誕生しましたので、今年度で
満6歳になります。人間なら、周囲に暖かく見守られながら育った幼児期を終え、い
よいよ少年期に入る年齢ですが、本学会もちょうどそのような状況にあると思いま
す。今後の大きな発展に向けて、体力を養い足腰を強くする必要性を感じます。
幸い、学会活動の眼目とも言える調査研究活動は、力強い発展軌道に乗りつつあり
ます。現在継続中の3研究委員会(基礎-地盤系、脆弱建造物、津波災害)に加え、
今年は更に複数の研究委員会(土構造物のLCC、次世代型実験施設など)が発足する
見込みですし、性能設計の研究成果を用いた講習会も予定されています。また、他学
会と連携して地震や津波の海外調査も実施するようになりましたし、論文集も徐々に
充実してきました。更に、会員サービスの一環としての広報活動もJAEEニュースの隔
週配信や会誌の定期的刊行も順調に進んでいます。加えて、液状化や動的相互作用な
どの講習会も開催予定です。このように学会活動は全体的に質量とも充実して来まし
たが、将来像を考えれば、関東や関西以外の地域での活動度を一層高めたり、法人化
への具体的な道筋を描き推進することが必要です。また本学会の会員数は、本年7月
現在で、正会員1200名余、学生会員30名余、法人会員90社余ですので、会員数の増
加、とりわけ学生会員の増強も欠かせません。
今年の11月には、第12回日本地震工学シンポジウムが開催されます。このシンポジウ ムは7学協会の共催ですが、前回までは、土木学会、建築学会、地盤工学会が回り持 ちで幹事学会をつとめ、開催されてきました。しかし今回からは、日本地震工学会が 幹事学会となり、関係学協会に呼びかけて運営委員会を構成し、開催することとなり ました。このシンポジウムを是非とも成功させ、21世紀に相応しい先例を開くことを 目指して取り組んでいます。
本学会の対外的な存在感を高め、活動基盤を確保することも重要と考え、学術団体と しての認定を受けるための準備を始めました。また本学会は、国内外の地震災害の軽 減という高邁な理想と高度な能力を兼ね備えた会員の集合体であることを宣言し、自 らの行動指針としても役立てたいとの趣旨で、倫理綱領の作成にも着手します。 少年期に入った本学会の体力を養い足腰を強くするために実施すべき事項は、以上の ほかにも多数あると思いますが、可能なところから順次、実現したいと考えていま す。 会員各位の、一層のご支援とご協力を切にお願い申し上げます。
日本地震工学会会長 大町達夫
(東京工業大学教授)
21世紀の最初の日、すなわち2001年元旦に、地震工学および地震防災に関する学術・技術に関する進歩発展をはかり、地震災害の軽減に貢献することを目的として、日本地震工学会が設立された。古くから世界をリードする活発な地震工学の研究が行なわれていた日本に、この時期まで専門の学会がなかったことは、国内外の地震工学関係者にとって不思議なことであった。地震工学あるいは防災に関する研究は、建築学、土木工学、地震学、地盤工学、機械工学あるいは社会科学など、それぞれの学問分野で活発な研究活動が行なわれており、その横断的な交流の場として、世界地震工学会議あるいは国内地震工学シンポジウムがあり、特に不便を感じなかったのかもしれない。しかし、そろそろ成熟期に入った地震工学においては、いろいろな学問分野の成果を総合化し、学際分野を補強し、社会全体の地震防災を考える必要が生じてきたこともあろう。ここに、日本地震工学会が創立5周年を迎えることになったことは喜ばしい。創立総会においては、正会員1044名、学生会員45名であったのに対して、第5回総会では正会員1,255名、学生会員46名、法人会員71社である。正会員数は漸増したもの大きな変化はない。ただ、創立時には規約がなかったために法人会員を受け付けることができなかったが、現在では71社の法人会員を迎えていることは、学会として活動する上にも有難い。
設立当初には、大きな希望を持って船出をしたが、規約も活動資金も何もない状況から、会長を初め、すべての役員が一致協力して、学会体制の創出・整備に努めてきた。日本地震工学会の活動経費を節減するために、理事が理事会に出席するための旅費も当初は自弁であり、新幹線に限って旅費を払う規定ができた後も旅費を辞退される方が多かった。また、電脳学会を標榜し、論文集および会誌の刊行、会員への広報活動としてのニュースなどは、すべてインターネットを活用することにより、印刷費および通信費を節約することにした。臨時職員しかいない学会を運営する理事には、学会の目的を実現する責任感と情熱だけを頼りに、手弁当によって頑張っていただいたおかげで、インターネット環境の整備、ホームページにおける論文集の刊行、研究委員会の設置、など、学会らしい形を徐々に整えることができるようになってきた。国際地震工学会に対する日本を代表する組織としての登録を行なうとともに、アメリカ地震工学会とも交流協定を締結することができた。
日本地震工学会の会員の皆様には、是非、学会のホームページを見ていただき、活動の状況を知っていただきたく存じます。
https://www.jaee.gr.jp/index_j.html
にあります。ここで、日本地震工学会の活動を振り返ってみましょう:
以上見てきたとおり、創立5年を経過した日本地震工学会は、学術団体としての活動および体制を徐々に整備してきた。現在、日本地震工学会が直面する課題は、正会員の数を増やして、会費により事務局を維持できる体制をつくること、任意団体から公益法人とすることである。創立当初は、既に述べたように自分の研究分野である学会を盛り立てようとする会員の熱意で学会が運営されてきた。事務局には臨時職員を雇用し、専門知識を必要とする会計事務だけを(財)震災予防協会に委託し、その他の学会運営を理事が手弁当で汗水たらして頑張っていただいた。学会の事務局に専任の事務職員を雇用し、理事の負担を軽減し、もっと専門的な会員サービスを向上させるためには、正会員の数をふやし、会費収入を増やすしか方法がない。この経済状況が厳しく、いろいろな学会が乱立する中で、会員を増やすためには、会費に見合うサービスを学会として提供してゆかなければならない。しかし、会費収入が増えない状況でのサービス向上は厳しい。
今年度の活動方針としては、会員が求める学会サービスを把握し、そのサービスの向上を図る活動を活発化すると共に、有益なサービスを受けることができる会員数を増やすことである。そして、来年、明治29年に制定された民法が初めて改正されるのを機に、日本地震工学会を任意団体から公益法人化へ向けて準備を進めてゆきたいと思っている。
日本地震工学会会長 小谷俊介
(千葉大学教授)
阪神・淡路大震災から10年を迎えた2005年の1月に日本地震工学会の会誌を発刊することは,本学会の発足の目的に照らして大変意義深いことと思います。10年前の1月、私は神戸の瓦礫の街にいました。地震の研究者としてこれまで一体何をしてきたのかと自問したとき、それまで「地震災害とはどういうものか」がまったくわかってなかったことを思い知らされたことを思い出します。
このことは、私一人ではなく建築工学、土木工学、地盤工学、地球科学、など地震災害に関連する問題を研究課題としている研究者の多くに共通した感慨だったのではないでしょうか。
地震による災害を少なくするにはどうしたらよいか、という考えは地震国日本に住む我々にとっては代々受け継がれた課題です。被害地震を経験するたびに、地震に対して安全な場所はどこか、安心して住める家はどのように造ったらよいのか、など人々の知恵が蓄積してきました。しかしながら、地震による災害の頻度は大変少ないため、1人の人間が生涯に2度の震災に遭うのは極めてまれなことです。また時代とともに都市は変貌しており、地震に験されていない多くの構造物が存在しております。これらのことは、経験主義的な被害軽減対策には限界があること意味しています。
地震記録や被害調査など実測データに基づいて、震災軽減のための科学的研究が行われたのは日本では1923年関東地震の時が初めてと思います。このとき地震学、土木工学、建築工学のみならず社会科学の研究者をも巻き込む総合的研究が行われ、それらの成果が立派な本として残されています。この関東大震災の経験は地震学、地震工学のみならず関連分野の研究を飛躍的に進歩させ、その後の日本の地震防災の研究に大きな影響を与えました。
関東大震災以後も、1944年東南海地震、1945年三河地震、1946年南海地震、さらに1948年福井地震など地震災害は続いて起こりましたが、福井地震以後は大規模な被害を引き起こす地震がしばらく途絶えていました。大都市を直撃する地震がなかったため、地震が起きても軽微な被害にとどまっていました。そのため、日本の建物や橋は地震に対して十分強くなったという過信が少なからず蔓延していたように思います。その証拠にアメリカで1989年ロマプリエタ地震や1994年ノースリッジ地震で高速道路の高架橋が倒壊するなど大被害が起こっているにもかかわらず、日本において必ずしも危機意識は高まりませんでした。
1995年阪神・淡路大震災は研究者にとっても少なからぬ驚天動地の出来事だったといえます。この地震は日本における地震防災のあり方に大きな問題があることを露呈しました。この地震による災害の大きさは地球科学や建築・土木工学など地震を研究対象としている研究者にとって衝撃的なもので、研究のあり方に反省を迫るものでした。どの分野の研究者もこの地震の前に災害軽減に対する方策を示すことはできませんでした。
1948年と1995年の2つの震災の間、観測計器やコンピューターの技術革新と相俟って、地震学、建築学、土木工学など研究はそれぞれ個別科学として大きく発展してきました。しかしながら、これらの個別科学の成果に基づいて、将来の大地震に対する揺れの予測とそれに基づく構造物耐震性向上のための理工学的研究や地震に強い都市作りのための社会システムの整備に関する社会科学的な研究などを連結した総合防災の研究はおろそかになっていたと思います。阪神・淡路大震災の被害の拡大の原因解明の研究から、地震災害の軽減には理学、工学、社会科学のインターディシプリナリーな研究の総合的発展が不可欠なことが次第に明らかになってきました。
日本地震工学会は地震災害軽減のための研究の必然的な方向として「地震工学に関連した学問や技術」の総合化を目的として2001年1月1日に設立されました。設立の趣旨として「地震防災に関する地震学、応用地質学、構造工学、地盤工学、構構造ならびにコンクリート工学、振動制御工学、ライフライン工学などの分野と、地域防災計画、クライシスマネージメント、リスクマネージメントなどの社会システム分野をカバーする普遍的な学会として、『地震工学会』を設立する」と述べられております。
2003年の十勝沖地震の時の震源から150kmも離れた苫小牧での石油タンクの火災事故、2004年の新潟県中越地震のときの山間部での斜面崩壊・土砂災害や新幹線の脱線事故、さらにスマトラ沖地震の津波災害は新たな問題を我々に突きつけています。 21世紀の前半には必ずやってくるであろう南海トラフ地震は、2003年十勝沖地震と同様にプレート境界に発生する巨大地震で、その規模は十勝沖地震をはるかに上回ると予想されます。南海トラフ地震の震源域に近い近畿地方や中部地方に存在する高度に発達した大都市部は、未だ巨大地震の強震動を経験しておりません。南海トラフ地震による災害を最小限にするためにどのような社会的貢献ができるかは日本地震工学会に科せられた大きな課題と考えます。
もう1つ重要なこととして、日本地震工学会の目的の1つに「この学会は、我が国を代表して地震工学分野の国際交流、国際貢献を担う」と記されています。まだ記憶に新しいインド洋沿岸諸国に津波による大被害をもたらしたスマトラ地震はもちろんのこと、2004年のイラン・バム地震や2001年インド・グジャラト地震のように比較的規模の小さい地震でも開発途上国では大災害が繰り返し起こっています。防災の先進国を自認する日本が防災に関する知識がまだ普及していない国々に対して、地震災害軽減のための教育や技術移転などの援助活動を支援するのも日本地震工学会の役割と考えます。
日本地震工学会会長 入倉孝次郎
(京都大学 理事・副学長)
新しく会長に選任された石原でございます。初代の青山博之、岡田恒男、土岐憲三の諸先生を引き継いで四人目となります。これら先生方のご努力で、現在、個人会員1271名、法人会員64の日本地震工学会が成立しています。今後は会員皆様のご協力のもとに、これをいかに成長、そして活性化していくかが私の役割と思っております。
本学会は電脳学会を標榜してスタートしたわけですが、宣伝、普及、会員増強のキャンペーンに対しては、どうしても受身で待ちの姿勢になってしまします。今後は予算の許す範囲内で、各種の催し物を実施し学会のビジビリティを増強し、プレゼンスを誇示して積極的な姿勢をとる必要があると考え、その方向で努力したいと思います。そのために、各種のシンポ、講演会、研究発表会、技術展示会を頻繁に実施し、会員各位の交流の機会を増やし、出来る限り多くの会員の皆様が学会という舞台で活躍できるよう努めたいと思います。これを通じて本学会への親近感と当事者意識をお持ちいただくことが肝要であると考えています。
日本地震工学会はNews Letters、論文等を発行し、又、ホームページを頻繁に更新して情報発信に努めています。地震工学に関する広範囲のニュースが迅速にNews Lettersに載ること、そして投稿したら短期間で論文が公表されページ数の制約が少ないこと等、相当の評価をいただいています。これらの広報活動を更に活発にし、それを定着化させる必要があろうと思います。
私個人の印象として、地震工学は今までいくつかの学会に分かれて独自の進化をしてきたと思います。そのため学問分野としての地震工学の姿が明確に見えにくくなっています。これを改善するためにも努力する必要があります。そのためには取りあえず地震工学の中の各分野別に発展の歴史を振り返り、現在の進展状況を概観し、整理して将来の展望を示しておくこと、つまりStates of the Art (SOA) を確立する必要があると思います。これは小屋掛け学問と呼ばれるのを避けるためにも重要です。
本学会には新しく研究統括委員会がスタートし、土木、建築、地盤、地震、機械の各分野の横断的重要課題を討議する場が準備されつつあります。多くの会員のご参加をいただいて、この活動を充実することが必要ですが、同時に、これらSOAの認識と確立を意識していただけると確信しています。
本学会の役目としては、まず関連学会の活動の仲介役、それら成果の総合化が挙げられます。そのため地震災害調査の総合報告会の開催や、共通した課題の討議検討を活発に行なう必要があります。次に一般社会の人々の防災意識の向上とか、知識の普及にも努力する必要があります。そのためには地震工学の内容を馴染みやすい形で解説PRし、一般の人々に関心を持って貰うことが必要です。このためには広報活動を盛んにし、地震防災に関して適切な提言をすることが望まれます。
新しく会長に選任され、以上のような目的を果たすべく努力しなければならないという責務を自覚しております。微力ではありますが、会員皆様のご協力を得て、日本地震工学会の隆盛に向けて努力するつもりですので、よろしくご支援の程、お願い申し上げます。
日本地震工学会会長 石原研而
(中央大学教授・東京理科大学教授)
私は2002年6月より、1年間、日本地震工学会の3代目の会長を務めることになりました。青山会長、岡田会長のご尽力により、当会は、短期間のうちに、その基礎を固めつつあります。しかし、そのよって立つ所は、役員はじめ会員のご好意、ボランティアに頼っている状況でもあります。学会が自立していくためには、会員数の一層の確保により、その規模を拡大していく必要があります。 また、規模だけに留まらず、学会活動の質を高めていくことも重要であり、私は本年度から、学術・調査委員会を立ち上げる計画ですが、本来の目的である「先端技術の普及」にも努めていかなければならないと考えております。一方、日本地震工学会は、各分野の横断的な繋がりを大切にする学会です。分野セクションに垣根があれば、人と人との繋がりを大切にして、広い心でこれを取り払ってこそ、連携による新しい学際研究が進み、社会に貢献できる新しい活動ができるものと信じます。
さて、2002年5月22日に開催された第2回通常総会においてご承認いただいたように、日本地震工学会は将来、社団法人化を目指していくことになりました。法人化は一朝一夕になるものではありませんので、長期間の地道な活動が求められます。そのためには、会員に対する情報提供、研究の促進に加え、国際的な連携をとっていくことや、会員外のたとえば自治体の防災担当者や一般市民の方々への働きかけや情報提供を通じ、社会的にその存在価値を認知されてこそ、法人と認められるものだと考えております。
当会の順調な発展に甘んじず、今後ともより一層の危機感をもって、この1年間会長としての任を果たしてまいりたいと思います。
会員の皆様には、今後ともご支援、ご協力をお願いする次第です。
平成14年6月1日
土岐 憲三
日本地震工学会会長 土岐憲三(京都大学教授)
青山博之会長の後を受けて本年6月より1年間、日本地震工学会の会長職を引き受けることになりました。1月に設立された本会の活動もやっと軌道に乗って参りました。ただし、軌道に乗ったといってもやっと本格軌道が見えてきたところで、まだ地球を一周していません。これからの一年間は本格軌道に乗せると同時に、宇宙ステーション建設の基礎の年としたいと考えています。軌道に乗せて何をするか? どんな宇宙ステーションを築くか? こんな議論も開始する年です。
議論の前提として、私は日本地震工学会を「地震工学の先端研究・技術の振興、融合、普及の場」と定義し、しなければならないこと、出来ること、を着実に進めたいと考えます。先端研究・技術の振興には、狭義の先端技術のみならず地震防災の現場の最先端で直面する技術も含め、融合には、土木、建築、地震、地盤、機械各分野の融合のみならず研究分野と現場の融合も含め、普及には、研究成果の現場への普及のみならず現場の問題を研究へ反映させることも含めたいと願っています。
退任された青山前会長に感謝すると共に、会員、役員の皆様のご協力をお願いいたします。
日本地震工学会会長 岡田恒男(芝浦工業大学教授)
日本地震工学会が21 世紀の最初の日である2001 年1 月1 日を期して発足いたしました。 設立趣意書にありますように、これだけ地震工学の研究も実務も盛んなわが国に地震工学の学会が無かったことが、 むしろ不思議であり、不自然であったのでありまして、2000年12 月20 日の設立総会へむけての有志の皆さんの 情熱的な準備活動は、いわば、やっと在るべき姿を実現できると言う喜びの反映だったとも申せましょう。いよい よ学会が発足し、千人あまりの会員の皆さんに本格的な活動を始めて頂けるようになりました。皆さんの情熱と、 使命感と、そして高い学術、技術が、日本地震工学会という場に結集して、地震工学を発展させていただけるもの と信じております。本格的な活動を始めるにあたって、考えておくべきことがいろいろあるように、私は思います。 第一に、1 月1 日を期して日本地震工学会が発足したと言いましても、学会があらゆる準備を万端整えてスタートしたわけでは ないということです。今まで存在しなかった学会が、出来たとたんに土木学会や建築学会のような既存の大学会なみ に活動できるわけがありません。むしろ最初は、ああでもない、こうでもないと、試行錯誤しながら活動する事にな ると思います。脇で見ている人にはまどろっこしい感じかも知れません。しかし、学会が一人前の学会に成長するに は、時間が必要なのです。建築学会も、今でこそ会員3 万8 千人を擁する大学会ですが、1886 年(明治19 年)に造家学会という名前で発足したときの創立会員は、わず か26人だったのです。建築学会と同じ規模の土木学会にしても、1914年(大正3 年)の創立時の会員数は、380 人だったそうであります。千人でスタートできる地震工学会は、恵まれていると申 せましょう。この学会の成長のために、会員の皆さんにはいっそうのご努力とご協力を頂き、また周辺の皆さんは、 温かい目で見守ってやっていただきたいと思います。
つぎに、日本地震工学会でこれからやろうとすることは、恐らくその大部分が、今まで全く無かったことでは なく、今まで各学会に分散して行われてきたことを再編成して、より高度に、より能率的にやろうとするものだと思 います。その再編成の過程では、当然、ある種の摩擦や、軋轢が生じることが予想されます。このような問題の解決 のためには、我々は、いたずらな自己主張ではなく、日本の地震工学の発展のために、ひいては世界の地震工学の発 展のために、何をどうなすべきかという、大所高所に立った判断をして行かなければならないと思います。具体的に、 日本地震工学会が最初に何をするべきか、これはこれから我々がまず議論して行かなければならないことですが、私 の個人的な意見としては、まず、従来土木、建築、地盤、あるいは機械、地震学、社会科学などに分かれて活動して こられた会員相互の連絡を密にし、理解を深めてゆくことが大切だと思っています。もちろん一般社会へ向けて働き かけて行くことや、海外との情報交流も重要ですが、我々はまず自分の足元を固めて行くことが必要であり、そのた めには分野間の連携を強めることが再優先の課題になると考えております。本学会の発足に当たり、今後展開して行 くさまざまな活動に会員の皆さんの御理解と積極的な御参加を頂きたく、また、皆さんの周りにいらっしゃる、地震 に対して何らかの関わりのある多様な分野の方々に、本学会への入会をお勧め頂きたいと思います。今まで皆さんか ら頂いた数々のお励ましやお力添えに対し、あらためて御礼申し上げますと共に、今後の一層の御協力をお願い申し 上げます。
日本地震工学レター Vol. 1 No. 1 の巻頭言より
日本地震工学会初代会長 青山博之(東京大学名誉教授)
Copyright (C) Japan Association for Earthquake Engineering. All Rights Reserved.