平成18年度〜平成20年度(3カ年)
地盤関係の構造物には、たとえば港湾の護岸、交通施設の盛土や杭基礎、斜面補強や擁壁、水利施設でとしての堰提やダムなど、きわめて多様なものがある。また土堤防の中には、本来の堤防としての役割だけではなく、通信ケーブルなどが埋設されて近代社会のライフライン網の中で重要な役割を担っている例もある。
土を主体とする構造物が強い地震動をこうむった場合、ある程度の被害が起こることは、やむをえない。しかし甚大な被害を回避して緊急時の社会対応に貢献すること、そして迅速な社会復旧の一翼を担うことは、誰しも願うところである。しかし実際には、そのような視点から耐震性を確保しようとする戦略は、地盤構造物にあっては明確には打ち立てられて来なかった。土構造物の挙動は構造物本体だけでなく基礎の自然地盤の振る舞いによって大きく影響され、それらの挙動予測には多くのデータが必要であるにもかかわらず、それらを調査する態勢が無いことも、理由の一つであった。その結果、万一の時の損傷が早急に復旧できる範囲に収まれば良い、という思考が、精一杯であった、と言えよう。しかしあらゆる公共投資に合理性、説明責任が求められつつある現在、初期建設投資、常時の維持管理、災害時の損害を全て合わせてライフサイクルコストで最適化を図る戦略も、準備しておく時期が来ている。そこで本研究は、代表的な数種類の地盤構造物を選び、ライフサイクルコストの考え方の提案および試算を行ない、将来への知的資産とする。
土構造物の維持管理に携わっている国内主要機関に対して、盛土や護岸、堰堤などの維持管理の基準と実態を調査する:維持管理工事に着手する変位の具体的な数値、時間間隔など。
土構造物の長期変化はクリープによってもたらされたところが大きい。そして締め固めた土のクリープの速度は遅く、維持管理の必要性は小さくなる。それと同時に締め固めた土は災害に対する抵抗も大きい。そこで三軸せん断実験装置にクリープしやすい粘土まじり砂の試験体を設置し、クリープ速度と動的強度を測定する。この実験を様々な締め固め度で行なう事により初期の建設エフォート(締め固め度)〜維持管理の必要性(クリープ)〜動的強度の関係を得る。
ライフサイクルの三要素の内、災害時の被害算定(コスト)が極めてむずかしい。当該土構造物の復旧費用だけがロスになるのではなく、その影響として起こる社会的損害をも含まれる。ところが他方、記録的な損害は、当該構造物だけではなく他の被災の影響も重なって生ずるものである。このようなことからライフサイクルコスト算定の具体的な方法がまだ存在せず研究が必要である。
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