コンクリート工学年次大会2001(札幌)参加報告
東京大学生産技術研究所 真田靖士
 2001年7月4日(水)〜6日(金)の3日間,札幌市内,札幌プリンスホテルと札幌市教育文化会館を主会場(写真1,札幌プリンスホテル国際館パミール)として,(社)日本コンクリート工学協会が主催する年次大会が開催されました.本大会は以下に示す行事から構成されましたが,筆者も第23回コンクリート工学講演会の講演者として出席しましたので,本講演会への参加体験を中心に簡単にご紹介します.
第23回コンクリート工学講演会
660件の論文,報告の講演,8つの研究委員会の報告
特別講演会 「21世紀の防災計画への提言−有珠山噴火からの教訓」
岡田弘教授(北海道大学大学院理学研究科)
アジアコンクリートフォーラム
アジア11カ国の代表者による記念講演,公開円卓会議
第15回コンクリートフェア
公共,民間研究機関から出展された76件のコンクリート技術展示会
第8回生コンセミナー
2件の講演(テーマ:「21世紀の生コン技術」)
基調講演,パネルディスカッション
テーマ:「生コンの品質・管理を考える」
少年少女絵画展,フォトコンテスト受賞作品展
写真1 会場(札幌プリンスホテル国際館パミール)
 筆者と主な関係者の都合上,大会2,3日目は終日,コンクリート工学講演会に出席する予定でしたので,主に初日にその他の会場を訪れました.写真2はアジアコンクリートフォーラム記念講演の模様です.21世紀最初の大会を記念する行事として開催されたアジアコンクリートフォーラム(記念講演)では,アジア11カ国のコンクリート界を代表する専門家が一堂に会し,各国のコンクリート工学に纏わる話題,とくに社会的・技術的背景,最新技術,基規準,国際活動などが紹介されました.写真3はコンクリートフェアの模様です.コンクリートフェアでは公共,民間を合わせ全76件が出展されましたが,地球環境問題を視野に入れた製品技術,コンクリートの品質検査技術,構造物の補修,補強技術といったように,時代背景を反映した展示を数多く見かけました.写真からもおわかりいただけますように,記念講演,展示会ともに大変多くの方々を集める盛況ぶりでした.
写真2 アジアコンクリートフォーラム記念講演 写真3 コンクリートフェア
 続きまして,コンクリート工学講演会に話題を移します.本大会では論文・報告が過去最多の660件寄せられ,筆者が参加しました講演会場でも,大学,公共の研究機関,民間の技術研究所など様々な機関から最新の研究成果が発表され,非常に活発な議論,意見交換がなされておりました.筆者の主観が多分に入るかと存じますが,印象に残っている研究,あるいはその感想をいくつか紹介させていただきます.筆者の講演部門でありました「構造解析」では,講演会に先立って「コンクリート構造物のポストピーク挙動解析委員会」の報告が併せて行われました.委員会報告では,構造物を対象とする解析技術は主にポストピークに問題の所在が移りつつあることが最新の研究成果や今後の課題などを交えて報告され,こういった時勢が講演内容にも非常によく反映されておりました.改めて述べるまでもなく,脆性的な破壊後(あるいは破壊前後)の耐力低下域の挙動は,それ以前の応答よりも現象として複雑であるばかりでなく,数値計算の技術的にも複雑であり(例えば,コンクリートのひずみ軟化域を扱う解析では,解析結果が要素分割数に大きく依存することが報告されている[1]),未だ解析手法が十分に確立されていないことを承知した上で,研究ツールとして利用すべきことを改めて確認しました.その他,新材料を応用して新しい高性能な構造材の開発を目的とする研究(例えば,高靭性を実現する繊維補強セメントの性能実験結果や,これを利用した部材実験結果が報告されている[2][3])もここ数年増えつつあり,大袈裟な言い方をすれば無限の可能性を有する新素材分野の研究や,近年の画像(処理)技術の急速な進歩を踏まえ,コンクリート部材の損傷を評価する上で切り離すことのできないひび割れを画像により処理する(現在まで,あるいは現在は専ら目視により処理している)技術の開発研究[4]など,新しいデバイスを積極的に利用することを目的とした研究を非常に興味深く拝聴させていただきました.
幸い,筆者の講演も無事?終わり,簡単ではありましたがこうして報告を書かせていただきました.今後の研究活動に有効であろう知識,情報を数多く得ることができ,また,自らの研究に対しても貴重なご意見,ご質問をいただくことができた有意義な札幌での3日間となりました.
[1] 水野英二,神戸篤士,畑中重光:各種構成モデルを用いたRC構造部材の繰り返し変形挙動解析,pp.19-24
[2] 諏訪田晴彦,福山洋,磯雅人:構造物の高性能化に向けた高靭性繊維補強セメント複合材料の開発,pp.133-138
[3] 藤原徳郎,松崎育弘,磯雅人,福山洋:高靭性型セメント系複合材料を用いたデバイスの構造性能に関する実験的研究,pp.145-150
[4] 武田篤史,山田守,大内一:RC構造実験におけるひび割れ計測の適用,pp.1177-1182
※すべて,コンクリート工学年次論文集,Vol.23,No.3,2000.6より