第23回若手地震工学研究者の会セミナー参加報告

独立行政法人港湾空港技術研究所 野津厚

1. はじめに

若手地震工学研究者の会(wwwcatfish.dpri.kyoto-u.ac.jp/~gyee)は,30才代までの地震工学を志す研究者が集い,親睦を深め,情報収集,議論の機会をつくっている会である.おもな特徴は次の通りである.

1. 35才まで入会でき,40才に達すると退会することになっている.
2. 主な活動は毎年夏に行われるセミナーである.
3. セミナー以外にも勉強会やメーリングリストを通じて様々な意見交換等が行われている.
4. 地震学,土木工学,建築学など幅広い分野からの参加がある.

本会ではメンバーの大学関係者を□□先生と呼ぶことはタブーとなっており□□さんと呼ぶことになっている.また,セミナーの発表では,発表の途中でわからないことがあれば,いつでも質問して良いことになっている.以上のことから,本会の雰囲気を察していただけるのではないかと思う. 本稿の筆者は,2004年9月11日(土)〜13日(月)まで名古屋市内で開催された第23回セミナーに参加する機会を得た.セミナーでは,会員による研究発表の他,招待講演者による特別講演や見学会などが行われた.本稿ではその概要について紹介することとしたい.

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写真-1 セミナー参加者(クリックすると大きくなります)

2. 研究発表

今年のセミナーでは口頭発表15件,ポスター発表18件,計33件の発表が行われた.口頭発表のタイトルを列挙すると次の通りである.地震工学に関連する幅広いテーマが扱われていることがわかる.

(初日)
長郁夫「測地、強震、遠地データとアスペリティの深さ:インバージョンの曖昧さと解釈の際の注意点」
丸山喜久「地震時の車両走行安定性に関する数値解析とシミュレータ実験」
高橋良和「OpenSees(Open System for Earthquake Engineering Simulation)の紹介」
渡辺和明「地中構造物の縦断方向の耐震計算法に関する研究」
藤本一雄「岩盤および地盤上の観測点ペアの強震記録に基づく地盤増幅度と地盤の平均S波速度の関係」
小野祐輔「河川堤防に隣接する半地下RCボックスの3次元解析」

(二日目)
本田利器「時間周波数面で局在性を有する「位相」の提案とその適用性の検討」
三浦浩之「高分解能衛星画像を用いた都市域の建物分布の把握とそれに基づく地震被害予測」
紺野克明「上野-亀戸間の微動から得られた表層30mの平均S波速度と1923年関東地震の震度との関係」
梶田幸秀「形状記憶合金の落橋防止ケーブルへの適用に関する考察」
上半文昭「地震被害把握を目的とした構造物振動の常時観測システム」
野津厚「周期2-10秒の速度波形から推定される2003年十勝沖地震の震源過程」
市村強「統合地震シミュレータの開発について」
市川卓也「地中線管路の耐震マップの作成について」
吉田雅穂「平成16年7月福井豪雨に見た地震災害との共通点」

写真-2 口頭発表の様子

写真-3 ポスターセッションの様子

3. 特別講演と見学会

二日目の特別講演では,愛媛大学工学部の羽藤英二先生および名古屋大学大学院環境学研究科の福和伸夫先生にお話をいただいた.羽藤先生には,御専門の交通関係のシミュレーションやモデル化について興味深いお話を聞かせていただいたほか,計画系の先生らしく,研究予算を「計画的に」取得する方法についてもお話しいただいた.福和先生からは「若手地震工学者は研究室を出て社会を動かすとき」という刺激的なタイトルで御講演をいただいた.福和先生の主張は裏を返せば「研究室にとどまるならばそれに相応しい成果を残せ」ということであり,身の引き締まる思いである.
三日目の見学会では,東名阪自動車道の半地下道路トンネルと第二東名高速道路の矢作川橋梁の現場を見学させていただいた.半地下道路トンネルの現場は住宅地に隣接しているため騒音の少ないSMW工法が有効に活用されているとのことであった.矢作川橋梁では波形鋼板ウェブのアコーディオン効果を利用し,コンクリート床版へのプレストレス導入の効率化を図っているとのことであった.

写真-4 羽藤先生の講演

写真-5 福和先生の講演

4. おわりに

以上,第23回若手地震工学者の会セミナーの概要について報告した.今年のセミナーでは例年にもまして熱心な議論が行われ,筆者としてはたいへん満足することができた.議論を盛り上げていただいた参加者各位,講師のお二人,さらに見学会でお世話になった日本道路公団の皆様に対し心より御礼申し上げる次第である.