日本建築学会北陸支部大会 基調講演とシンポジウム 2004年新潟県中越地震における被災直度の家屋調査について考える 「建築関係者には何がきたいされているのか」 参加報告 |
中村友紀子(新潟大学) |
はじめに 本シンポジウムは、2005年7月9日-10日に開催された2005年度日本建築学会北陸支部大会において、初日の9日13:10-16:00に新潟市歴史博物館みなとぴあセミナー室において開催された。司会は加藤大介(新潟大学)。参加者は96名であった。 第一部 基調講演 趣旨説明 : 加藤大介(新潟大学) 地震被災後には多くの家屋調査が行われる。全壊半壊調査、応急危険度判定、被災度判定、罹災証明等である。これらはどのような目的で行われるのであろうか。建築関係者は何をすることになっていたのか、また実際に何をしたのか、そして被災者はどう受けとめたのか。大きな混乱があったことが報じられているが、そのどこに問題があったのか。それはどうすれば解決されるのか。今回の中越地震の被災当初を振り返り、これらに関わる諸問題を「建築関係者には何が期待されているのか」という市民の立場で議論してみたいとの説明があった。 中越地震における木造家屋の被害 : 五十田博(信州大学助教授) 中越地震の木造家屋調査によって提示された課題,わかった事,わかりつつある事のそれぞれに分けての説明があった。 中越地震における鉄骨造体育館の被害(+福岡県西方沖地震の被害速報) : 土井希祐(新潟大学教授) 鉄骨造体育館の被害は,設計年代が昭和56年以前と以後では被害率に差が生じていた。これは1995年兵庫県南部地震の被害と同様である。被害は昭和56年以前の建築のものが中心であった。昭和56年以前の建物でも耐震改修をおこなった建物は、無被害もしくは軽微な被害であったことが説明された。 第二部 シンポジウム 応急危険度判定実施について新潟県からの報告 : 井筒宥二(新潟県総務部管財課副参事) 地震翌日10月24日より、11月10日までの計18日間、20市町村(地震発生当時)で行われ、延べ約3,800人の応急危険度判定士が36,143棟の判定を行った事が紹介された。 罹災証明実施について長岡市からの報告 : 今井重伸(長岡市都市整備部都市政策課主査) 被害認定とは、罹災証明や義援金の配分などに使われる調査である。固定資産税減免などへ影響する為、資産税課の職員が行った。 応急危険度判定と被災度判定について研究者からの報告 : 五十田博(前出) 木造家屋の振動実験事例を挙げて被害について説明があった。
応急危険度判定と被災度区分判定の判定結果の相関については建築研究所で調査中である事が紹介された。 調査実施者の立場からの報告 : 大平義二((株)アクト代表取締役 新潟県建築士会南魚沼支部) 応急危険度判定士として調査を行った建築士の立場として報告がなされた。応急危険度判定,被災住宅相談キャラバン隊としての活動の状況を説明された後,それぞれの調査に対しての感想として下記のような点があげられた。 1.応急危険度判定について 外観調査のみでは被災者のニーズに答えられなかった。判定士人数が不足していた。このため数をこなす事が優先され,住民への意を尽くすことができなかった。内部調査を実施して説明を細やかに行いたかった。 2.被災住宅相談キャラバン隊について 応急危険度判定により黄判定を対象とするとの事だったが,未実施のところが多く応急危険度判定と平行して行った。高齢者世帯では相談されて時間がかかったが,調査者の判断で相談にのる事ができよかったと感じている。この点も含めて応急危険度判定時とは差が大きいと感じた。 3.被災度判定について 役所より建築士会へ依頼できるかとの問い合わせがあったが,ボランティアでは出来ないと回答した。結果,市町村の職員で実施したようだ。被災者は被災度判定に神経過敏であったと感じた。行政側による十分な説明伝達が重要であると感じた。 この他,調査作業に当たっては,ワンボックスカーなどの相乗りによる移動,中山間地では,カーナビゲーションが役に立った。携帯電話で連絡を取り合うことでチーム間の応援要請など効率的な調査に有効であった。 さらに,事業所等の被災時の様子として,コンクリート製造業者の地震時の様子が報告された。 討論・質疑 保険会社,農協の保険料支払いの為の調査は内部まで入って調査するのに対して,行政が行った被災度判定の1次調査,建築士の応急危険度判定とも外観調査のみであることに被災者の不満が多かったことをどのように考えるかという質問に対して,調査実施者が異なる場合には,判定基準・判定方法が違うことに対する説明が不十分であったと考えているとの回答があった。 応急危険度判定の意義についての質問に対しては,当座,建物内に入る事が安全かどうかを判定するものであり,本来は48時間以内くらいに行うべきものと考えている。地震の5日後の10/28日からは,応急危険度判定ではなく被災住宅相談キャラバン隊に切り替えて活動した事が報告された。キャラバン隊の場合には希望によっては内部調査も行うことができ,被災者の相談にのる事ができた事が報告された。 またフロアより,調査が概観調査のみで市民の不満が大きかった事が問題視されているが,ほとんどのケースでは,外観調査で判定可能であったとの意見もだされた。 調査ボランティアを行った側の立場では,応急危険度判定やキャラバン隊は,全てが持ち出しの建築士によるボランティアであり,かつ道中及び現地での安全が保障されず,リスクを負っての作業であったことが報告され,被害認定作業を行っていた行政側は勤務である事と比較すると,現状のボランティアによる判定では被災者の期待にこたえていくことが難しいとの指摘がなされた。 討論風景 おわりに 中越地震では,筆者自身もいくつかの調査に参加した。しかし,普段から新潟の人々に対して雪国特有とも考えられる忍耐強さを感じていたから余計にそう思うのかもしれないが,これらの調査が,住民への負担を大きくしたのではないか,研究者が行った調査は住民への負担を差し引いてもなお有益なものと堂々といえるか考えると,今でも疑問が残っている。何をするべきだったのか,何が求められていたのか,学会関係者以外の行政側や建築士会の方のお話を聞く機会は少な為,そうした視点からのお話はとても勉強になった。パネリストの皆さんには,心より感謝いたします。また,被災地の一日も早い復興をお祈りします。 |