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第28回若手地震工学研究者の会セミナー参加報告

 日本工営(株)中央研究所 秦吉弥


1.はじめに

 若手地震工学研究者の会(http://wwwcatfish.dpri.kyoto-u.ac.jp/~gyee/)は,30才代までの地震工学を真剣に志す研究者が集い、親睦を深め、情報収集、議論の機会をつくっている会である。おもな特徴は以下のとおりである。

  • 35才まで入会でき、40才に達すると退会することになっている。
  • 主な活動は毎年夏に行われるセミナーである。
  • 勉強会やメーリングリストを通じて様々な意見交換等が行われている。
  • 地震学、土木工学、建築学など幅広い分野からの参加がある。

 本会ではメンバーの大学関係者を○○先生と呼ぶことはタブーとなっており、○○さんと呼ぶことになっている。また、セミナーの発表では、発表の途中でわからないことがあれば、いつでもどんどん質問して良いことになっており、活発な議論が行われている。

 本稿の筆者は、2009年8月23日(日)〜25日(火)まで、岩手県一関市の「祭畤温泉かみくら」において開催された今年度のセミナーに幹事団・事務局として参加する機会を得た。セミナーでは、会員による研究発表の他、招待講演者による特別講演や見学会などが行われた。本稿ではその概要について紹介する。

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写真-1 セミナー会場となった祭畤温泉かみくら(岐阜大学 久世さん提供)

2.現地見学会

 初日は、一関駅前に集合し(写真-2参照)、マイクロバスを貸し切り、現地見学会を開催した。現地見学会では、東北大学大学院工学研究科の渦岡良介先生および内藤さんの引率の下、2008年岩手・宮城内陸地震により発生した荒砥沢地すべり及びまつるべ大橋の見学を行った。通常は立ち入りが禁じられている地すべり近傍や落橋地点河床での生々しい被災状況の数々の光景は、自然の力の脅威を改めて我々に痛感させるものであった。

 2日目早朝には、(独)防災科学技術研究所の青井真博士の引率の下、2008年岩手・宮城内陸地震において4000galの強震動が観測されたKiK-net一関西の強震観測点に向かい、観測小屋の中まで見学させていただいた。

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写真-2 久しぶりの再会で話もはずむ集合状況(新潟大学 中村さん提供)
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写真-3 荒砥沢地すべり見学状況(新潟大学 中村さん提供)
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写真-4 まつるべ大橋見学状況@(岐阜大学 久世さん提供)
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写真-5 まつるべ大橋見学状況A(新潟大学 中村さん提供)
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写真-6 まつるべ大橋での集合写真
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写真-7 KiK-net一関西見学状況(岐阜大学 久世さん提供)

3.研究発表

 今年のセミナーでは、オーラルセッション15件、お座敷ポスターセッション18件、計33件の発表が行われた。発表タイトルを列挙すると次の通りである。なお、3日目の最終セッションでは、今年度で退会予定である赤澤さんの卒業講演が行われた。

 (1日目)
■ お座敷ポスターセッション

  • 庄司:橋桁に作用する津波荷重評価
  • 一井:防災タペストリーの試作
  • 三宅:運動学的・擬似動的・動力学的震源モデリング
  • 久世:震源特性に基づく地震動算定について
  • 野口:台湾新竹地域の地下構造推定
  • 松崎:塩害による鉄筋腐食を考慮したRC橋脚の耐震安全性評価(仮)

 (2日目)
■ オーラルセッション

  • 森井:木造軸組架構の耐震性能評価に関する実験的研究
  • 清水:木造建築物の耐震性能に関する研究
  • 後藤:断層の破壊を力学的に計算する方法について
  • 宮本:構造系の非線形挙動を前提とした、地震動の特性の分析手法の提案
  • 大西:南海トラフで発生する地震による大阪堆積盆地のゆれ
  • 高橋:E-ディフェンスにおけるRC柱16体一斉加震実験
  • 村田:常時微動観測を用いた地震動推定と震害指標の評価
  • 羽田:IWTH25における上下動の検討など

■ お座敷ポスターセッション

  • 鈴木:防災科研における震源過程解析
  • 福島:8月11日駿河湾の地震の強震域の現地調査
  • 高瀬:コンクリート構造物のひび割れ面におけるせん断伝達機構の解明
  • 本山:木材を用いた地盤改良技術
  • 新井:液状化地盤の地震動増幅率と最大変形の簡易評価法
  • 飛田:震源近傍における鉛直動の片揺れ現象に対する数値解析

(3日目)

  • 秦 :能登有料道路における地盤震動特性と推定地震動
  • 山田:なぜ非対称な加速度波形が生まれるのか?
  • 中村:応答スペクトルの手法による地震動の時刻歴特性が応答に与える影響について
  • 赤澤:関西地震観測研究協議会の現状と今後の展開

4.特別講演

 2日目の特別講演では、(独)防災科学技術研究所の青井真博士および京都大学大学院工学研究科の林康裕先生にお話をいただいた。青井先生には、トランポリン効果による一関西で観測された不思議な非対称な地震動についてお話しいただいた。林先生からは、大阪府域を例として建築物に対する設計入力地震動のあり方やこれまでの地震被害についてお話しいただいた。ご講演では、貴重なデータをご紹介していただくのみならず、会員からの質問に対しても非常に丁寧なご回答をしていただいた。

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写真-8 セミナー会場での集合写真

5.おわりに

 第28回若手地震工学者の会セミナーの概要について報告した。今年のセミナーでは、初日の現地見学会のあとに、特別講演や研究発表があったため、例年にもまして熱心な議論が行われた。議論を盛り上げていただいた参加者各位、講師の先生方に対し深く御礼申し上げます。最後に、今年度のセミナー幹事団を以下に列挙します。

  • 庄司 学(筑波大学大学院)
  • 新井 洋((独)建築研究所)
  • 一井康二(広島大学大学院)
  • 鈴木 亘((独)防災科学技術研究所)
  • 森井雄史(清水建設(株)技術研究所)
  • 秦 吉弥(日本工営(株)中央研究所)


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