平成18年度〜平成19年度(2カ年)
実験施設の高度化は地震工学研究の合理化を促進するために極めて重要である。地震工学関連の実験施設は、初期の手動操作の時代(第1世代)から、アナログ制御の時代(第2世代)、ディジタル制御の時代(第3世代)を経て、現在、大型化、システム化の時代(第4世代)を迎えている。国際的な実験施設の大型化、システム化の潮流の中で、実験施設の開発は一層高度な技術をベースとして進めることが不可欠となり、これに見合う投資も莫大なものとなることから、国際的な共同利用も視野に入れた実験施設に対するビジョンを持たないと、国際的なリーダーシップを取ることが困難になりつつある。
第4世代の実験施設の代表例は、実大3次元大型振動実験装置E-Defenseと米国のNEES(George E. Brown Jr. Network for Earthquake Engineering Simulation)である。E-Defenseは大型化を目指した世界トップレベルの実験施設として、今後、我が国のみならず国際的にも地震工学実験のハブとして重要な役割を果たすことが期待される。一方、NEESは実験施設間をネットワークで結び、システム実験を目指すとともに、IT技術を駆使し、映像や実験データのアーカイブ化を進め、どこでも誰もが実験に参加できるという新コンセプトの実験施設群である。また、韓国や中国、ヨーロッパ諸国でもNEESとほぼ同一のコンセプトで、IT技術を用いた実験施設のネットワーク化の動きが加速化されている。 我が国では米国のように大規模な耐震実験施設は大学には設置されてこなかったため、もともと日米の大学間の実験施設を比較すると、圧倒的に我が国が米国に立ち後れてきた。従来は、この差を国立研究機関と民間企業の技術研究所の優れた実験施設が補ってきた。しかし、国立研究機関の実験施設は筑波移転に伴って整備されたものが多く、国際的に見て第3世代に相当するものが多い。また、民間企業の研究所も昨今の建設投資の減少に伴い、現状のままでは研究能力を十分生かすことが困難になりつつある。
こうした中で、我が国ではE-Defenseを中核とし、国際的な視野で今後の地震工学研究の発展に寄与できる地震工学実験インフラのあり方を検討する時期になっている。このためには、将来の実験施設のビジョンを描くだけでなく、研究者の育成、国際的に通用する実験研究、国際的な実験コンソーシアムの構築に向けた我が国の研究戦略も検討する必要がある。また、国内に多数ある地震工学実験施設をIT技術を用いてリンケージし、相互利用するとともに、実験データのアーカイブ化を図り、地震工学研究の基礎を強固なものとしていく工夫も求められている。
次世代の我が国の地震工学研究基盤のあり方に関する提言としてとりまとめる。
川島一彦 | 東京工業大学大学院土木工学専攻 教授 |
中島正愛 | (独)防災科学技術研究所・兵庫耐震工学研究センター 所長 |
壁谷澤寿海 | 東京大学地震研究所 教授 |
三田 彰 | 慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授 |
安田 進 | 東京電機大学理工学部建設環境工学科 教授 |
笠井和彦 | 東京工業大学建築物理研究センター 教授 |
中埜良昭 | 東京大学生産技術研究所 教授 |
塩原 等 | 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 助教授 |
高橋良和 | 京都大学防災研究所 助教授 |
運上茂樹 | (独)土木研究所 耐震研究グループ 上席研究員 |
岡田 久 | (独)建築研究所構造研究グループ |
室野剛隆 | 鉄道総合技術研究所構造物技術研究部耐震研究室 主任研究員 |
河村壮一 | 大成建設技術センター長 |
阿部浩一 | 文部科学省研究開発局 防災科学技術推進室(オブザーバー) |
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